サイン・・・・下さい。

ある日のとある地方球場でのナイトゲームの観客席で、俺と某格闘家は某球団の試合前練習をビールを飲みつつ馬鹿話をしながら眺めていた。

すると後方から「サイン・・・・下さい。」という声がする。

振り返った俺達の視線の先には小学生くらいの少年二人組がいた。

俺はそこが野球場である事をすっかり忘れて、内心「ほほう?・・・、その若さで某格闘家の渋さが分かるとはおぬしらなかなかやるよのう。」とほくそ笑みながら彼等に近づいて行った。

すっかりマネージャー気取りの俺。満面の笑みを湛えながら

「いいよ、何枚?」

と更に俺。

だが、どうも話が噛み合わない。

彼等は再び繰り返す。

「サインもらって下さい。」

俺達の席はグランドに面した指定席。彼等はこちらには入って来れないのだ。彼等が指差す先では某球団の選手がファンサービスに努めていた。

そう彼等は俺達に「サインもらって来い」と嘆願しているのであった。

ああ、俺、大やけどじゃないか?

某格闘家にももっと頑張って貰おう。じゃないと困る。ホント困る。