勘違い。


2年前の義弟の結婚式での話。


義弟の友人の青年が話し掛けて来た。


「格闘技、お好きなんですよね?」


おそらく義弟から聞いたのだろう。

つまらなそうにしている様に見えたのだろうか。彼なりの気遣いだろう。

「ええ、まあ・・・。」

私は答える。


「僕もK1とか好きなんすよ!」と青年。妙に嬉しそうだ。


・・・・・。


私の最も苦手な話の展開だ。


別にK1が嫌いなわけではない。


私の格闘技の嗜好はあまりにニッチ過ぎて説明が難しいのだ。


まあ、いい。その好青年には悪いが、私はテキトーにやり過ごすことにした。


「ええ」「はあ」「まあ」どれだけのループを繰り返した頃だろうか。


どこまでも無愛想な私を見かねたかみさんが話を振って来た。


「あの話をして差し上げなさいよ。」


余計な事を言う女だ。


こうなればホントの話するしかない。


高橋義生パンクラスが好きです。」


私は事実を正直に話した。


すると、青年はパッと明かりがついた様に満面の笑顔を浮かべた。


「いや〜、僕もWOWOWでよく観てましたよ。」




賢明な読者の方は既にお気付きのことだろう。


彼は致命的な勘違いをしていた。


10年前なら「囲め囲め」だ。


しかも、彼は無邪気で人懐っこい笑顔を浮かべている。故意ではない。


「レオン・フライとかハンス・ナイマン、大好きでしたよ。」


と彼。


違う!違うよ!セニョール!


「いかに彼を傷つけずに事態を終息させるか?」

私は賢明に考えた。


「そうですか。私は成瀬昌由が好きでした。」

当たり障りのない答えをした。


だだスベリだ。


私がその後、更に不機嫌になったのは言うまでもない。